妄想紀行

好きなことについて話したい自分のための忘備録。

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庾詩(一)

  衛王贈桑落酒奉答   衛王に桑落酒を贈られ答え奉る   庾信 

愁人坐狭邪   愁人 狭邪に坐し
喜得送流霞   流霞を送らるるを得たるを喜ぶ
跂窓催酒熟   窓に跂りて酒の熟ゆるをうなが
停杯待菊花   杯を停めて菊花を待つ
霜風乱飄葉   霜風 飄う葉を乱し
寒水細澄沙   寒水 澄みたる沙に細し
高陽今日晚   高陽 今日の晩
応有接䍦斜   応に接䍦せつりの斜めなる有るべし


  衛王に桑落酒を贈られ、それに答えて奉る

愁いを抱える人(=私)は狭い道に座り込んで
流霞(仙人の飲み物、美味しい酒)を送っていただいたことを喜んでいる
窓に寄り掛かって酒が温まるのを促し
杯をとめて菊花(の酒)ができるのを待っている
肌を刺すような風が落ち葉をかき回し
さらさらとした砂の上を冷たい川が細く流れている
高陽池には今日の晩
接䍦(被り物)を斜めにつけた人がいることだろう


※衛王:(?-574)宇文泰の子で、名は直、字は豆羅突。衛刺王とも。
※高陽~:『晋書』巻四十三 山簡伝から。彼は年中遊び歩き、高陽池のほとりで宴を開いては酒に酔っていた。その様子を見た子どもたちが「山公はどこへでかけた、でかけて高陽池にいった。夕方になるとさかしまに車に載ってかえってきて、酔っ払って何もわからない。たまに馬に乗れたと思うと、今度は白い帽子があべこべだ」と歌ったとか。


***


古代中国の文人で初めて好きになったのが李白だったのもあり、庾信の詩を漁るようになっても彼はお酒好きだったのかな、どんな風にお酒と向き合っていたのかな、みたいなことはずっと頭の中にありました。李白と違い彼は一生を通して国に仕えて過ごしたので、酒やら着物やらをいただいたのを謝して奉る、みたいな詩がたくさんあるのもまた面白い。異国の地での生活を余儀なくされてからも、(趙王といい滕王といい)本当に宇文泰の息子たちにめちゃくちゃ可愛がられたんだな~~~と思うととても楽しくなってくる訳ですが、それは今は置いておくとして。

部屋の中でお酒が温まるのを今か今かと待ちながら、彼はきっと窓から外の寒々とした景色を見ている。この温度的な落差の後に、山簡の滑稽な故事で〆るお茶目さが何ともかわいい。昨日今日と急に涼しくなってちょっとだけ温かいものが恋しくなったりしましたが、そんなときに丁度この詩を読んでいたものだから余計にほっこりしました。
「有喜致醉」もそうですが、彼が酔っている姿はどこか微笑ましいというか、適度に赤らんだ顔でほのぼのした時間を過ごしているようなイメージが現時点ではあります。

あとは「愁人」という呼称が好きです。彼の話題で欠かせない「郷関の思」云々は語りだすと長くなるというか、もう少し色々きちんと読んでから書きたいので詳しいことは来るかも分からない後の機会に譲りますが。「愁人が狭い道に座り込んでいる」という表現から、何ともささやかな空気を感じて胸がきゅうとします。
「狭邪」について、森野氏は「長安の路名」とだけ語釈をつけ、自分は取り敢えず文字通り(?)に訳してみましたが、よくよく辞書を見ていると遊郭だったのかなと後から気付くなど。それはそれでまたこじんまり感とのギャップがゲフン すぐ物寂しい方向に思考が傾くのは自分の悪い癖です。



とまあこんな感じで彼の詩やらを読んで思ったことを並べるメモ帳代わりに突発的にブログを始めました。少なくとも庾信に関して語りたいことはまだまだあるので……書けたらいいな……。



〈参考、メモその他〉
森野繁夫『庾子山詩集』
桑落酒与杜甫_终年孤独_新浪博客
倒载_百度百科
維基文庫

※本当は註釈書とかも参照したかったんですが、「この詩が好きって話がしたい!!!」という勢いが先走って強行突破。後で何かしら書き足すかも…。